リソグラフィプロセス検査装置
「LXシリーズ」
誕生秘話
シリコンウェハに焼き付けた回路の欠陥を発見するマクロ検査装置「LXシリーズ」は、
今や新しい構造をもつ最先端の半導体の開発・製造に欠かせない存在となっている。
その新バージョンの開発で、不可能と思われた要求性能の実現に、エンジニアたちが挑んだ。
LXシリーズのプロダクトリーダーとして、戦略策定や開発マネジメント、顧客折衝に携わり、チームをけん引する。
ソフトウェアチームのリーダーとして、お客様と共にソフトの仕様を決定し、プログラムの設計開発を取り仕切る。
システム全体の取りまとめと光学系全体の設計・開発を担当。メンバーをまとめながら装置全体の開発をリード。
「何としても成功させる決意でスタートしました」。当時入社3年目の野澤にウェハ検査装置開発が託された。ウェハ検査装置ビジネスはレーザーテックにとって未踏の領域。正に新規ビジネス。半導体はウェハ上につくられたレジスト膜に、回路を転写して製造するが、そこに異物や膜厚の不均一、また回路のCD(線幅)に欠陥があると、デバイスとして機能しない。その欠陥を検出するのがウェハ検査装置だ。半導体業界で回路の微細化が飛躍的に進み、新たな構造も登場。欠陥を検出するハードルが高まり、検査装置のさらなる高解像度化、高感度化、処理スピード向上が求められている。原理的にも技術的にも高度で、エンジニアにとって挑戦しがいがあるテーマが多い。野澤は欠陥を発見する新たな手法や、世界最高スペックの光源や光学系の開発を通じて、これまでにない性能の検査装置をつくり続けてきた。そして2012年、野澤が出した一つの答えが「LX300シリーズ」という検査装置だった。新しい装置は格段に性能が向上し、「今まで見えていなかったものが見える」とお客様から絶賛された。しかし、話はそこで終わったわけではなかった。
新機種のリリース後も、半導体の微細化・複雑化のスピードはとどまるところを知らない。それは検査装置の機能強化があってのこと。より高解像度でUV(紫外線)からIR(赤外線)までの多波長光源への対応など、従来にない新しいニーズも出てきた。新たに開発した世界最高性能の光源でさえ、明るさが足りなかった。装置のあらゆる箇所に手を入れる必要があり、単なるバージョンアップでは済みそうにない。「新しい装置を開発するしかない」。野澤は再びLXシリーズの次世代機開発にチャレンジする決意をした。新たに開発メンバーに加わった佐藤、河野、草たちは、要求仕様を見て顔を見合わせた。「正直言って最初は実現不可能だと思いました。特に光学系の明るさと処理スピードを約100倍にするという目標値には驚きました」。初めて装置全体の設計や取りまとめを任された佐藤はそう振り返る。しかし、チャレンジングな課題にメンバーたちは奮い立った。彼らの他にも光学、機械、電気、ソフトの精鋭たちが集結し、「最適なシステム構成とは?」「お客様の要求仕様をどうすれば実現できるのか」、日夜デザインレビューが繰り返された。
検査画像の高解像度化をしようとすれば、必然的に画像サイズが大きくなる。それに伴いシステムの光学系の明るさと処理スピードのアップが必要となるが、およそ100倍という仕様の達成は困難を極めた。装置全体をどのようなシステムにすれば、処理速度と明るさをアップできるのか。佐藤たちはお互いに連携をとりながら、あらゆる角度から検討を続けた。そして光応用技術、メカトロニクス、精密機構、画像処理などの構成要素をゼロベースで見直して、その相乗効果で要求をクリアしようと試みた。ソフトウェアチームのリーダーである河野は、「ソフトウェアは一からすべて見直して、アルゴリズムを最適化し、並列処理を極限まで進めていきました」と話す。さらに画像を取り込むスピードの高速化や、装置上でウェハを移動させるコンポーネントの動作も高速化。一つひとつの処理速度向上を掛け算した結果、お客様の要望を見事にクリアすることができた。
レーザーテックの強みの一つに開発スピードがある。毎週の電話会議でお客様と評価結果と仕様の擦り合わせを行い、社内でレビューを開いてメンバーとその内容を検討する。そこで決まった仕様を再びお客様に提案する。エンジニアが営業担当と共に直接お客様の声を聞いて、スピーディに開発に反映させるのがレーザーテック流。そのスピードには、大手メーカーで経験を積んだ転職者も驚く。さらに、お客様とのやり取りを重視している点も特筆すべきポイント。お客様の何気ない一言に大きなヒントが隠されていることもあるからだ。半導体メーカーは世界トップレベルの優秀なエンジニアの集まり。検査装置のユーザーの観点で、想像できないような指摘が出てくることもあり、それに触れることができるのは、社員にとってとてつもない財産になる。このようなプロセスを経て、装置はいよいよ完成に近づいたが、お客様の工場での立ち上げ段階の、新たな要望や当初想定しなかった不具合にも、開発チームは粘り強く対応していった。
それぞれが最大のパフォーマンスを出し切って開発した新しい「LX500シリーズ」は、お客様から非常に高い評価を受けた。「お客様が求める厳しいスケジュールにも、何とか対応するのがマネジメントの腕の見せ所。困っているお客様を少しでも早く助けたいと考えて取り組みました」。そう語る河野がつくったソフトはお客様から絶賛され、そのスキルは「宇宙開発でも通用するほどだ!」と太鼓判を押された。「お客様の要望に対して、できないと答えれば解決は遠退きます。できると信じて仮説を立てて検証し、試行錯誤を繰り返しながら何とかカタチにできました。粘り強く取り組んできたからこそ、スピード開発ができました」と佐藤も振り返る。現在、「LX500シリーズ」は1号機に続いて、2号機、3号機とバージョンアップを行い、新たなお客様の新たな課題解決に取り組んでいる。「このメンバーなら大抵の課題は乗り越えられるという自信につながりました」と野澤は振り返る。数名でスタートしたプロジェクトが、現在では社内でも指折りの開発規模となり、新規ビジネスの柱となりつつある。彼らの不可能への挑戦に終わりはない。
装置が納入先で実際に稼働したとき、お客様にとても喜んでいただけました。「レーザーテックと仕事ができてよかった」という言葉で、努力が報われました。
ソフトウェアが安定稼働するまでの間は困難の連続でした。苦労して開発したソフトが納入先で無事に稼働しだしたときには、大きな達成感を得ることができました。
「世の中にないものをつくる」という会社の理念は、一本道で上手くいくわけではありません。試行錯誤しながら解決策を見出していく醍醐味を実感しました。